2022/07/11 11:01


クリームたっぷりの贅沢なロールケーキ「ラ・トゥール」の裏話です。

映画のメイキング映像や、小説の作者あとがきのように、おまけとして楽しんでいただければ嬉しいです。



初めてのロールケーキ

ロールケーキというお菓子は、普通のケーキ屋だと必ずと言っていいほど置いてありますが、ティーグルショコラでは今まで作っていませんでした。
理由はシンプルで、卵と乳製品と小麦を使わないでお菓子を作るための知識や経験が足りていなかったからです。
しかし、2年以上新しいお菓子を作るために試行錯誤を重ねてきたこともあり、そろそろ挑戦しようか、ということで出来上がったのがこの「ラ・トゥール」になります。

もちろん何度も失敗を繰り返しました。
最初の壁は「ロールできるスポンジ生地を作る」ということ。
スポンジ生地をロールさせるには、曲げられる「柔らかさ」、曲げても割れない「しなやかさ」、形を保つ「強さ」が必要です。
卵と小麦が使えればそう難しいことではないのですが、ティーグルショコラではそうはいきません。
自分は本当にパティシエなのかと思ってしまうほど悲惨な失敗を繰り返しては、調べ、考え、仮説を立て、検証する日々。
なんとかロールケーキの形を作ることができ、スタートラインに立ちました。

次の壁は「クリームと美味しく食べられるようにする」ということ。
米粉やコーンスターチを使うと、冷蔵庫で冷やした時に「老化」が起きることで食感が固くなり、パサパサになってしまいます。
そうなると口の中でのクリームとの混ざりも悪くなり、美味しさが落ちてしまうことが難点でした。
使う材料だけでなく、作り方、焼き方、焼き時間、焼き上がりの処置など、各工程それぞれで改善できることはないか、これも仮説、検証を繰り返して完成に至りました。

納得のいく味になるまで、かなりの時間と労力を費やしたお菓子です。
普通のロールケーキと比べても遜色ないと思っていただけたら嬉しいです。




「ラ・トゥール」という名前に込めた願い

「ラ・トゥール(La tour)」とは、フランス語で「塔」という意味。
とあるお話の中で、こんな一節があります。

その塔は高くたかく、雲を突き抜け、まっすぐにそびえ立っていた。

誰のものでもないその塔は、そこにあるだけで、見る者を魅了していく。

ある人は『夢』を。

またある人は『希望』を。

『向上心』『憧れ』『道しるべ』『安らぎ』『象徴』。

それぞれの想いを胸に、今日も人々は塔を見上げる。


最近は、アレルギーを持った子供たちが増えているといいます。
「食べたいものが食べられない」という大変さを知っているからか、「大きくなったらアレルギー対応のレストランとかケーキ屋を作るんだ」という夢を抱く、心優しい子供たちのお話を聞く機会が増えてきました。

そんな子たちのために、アレルギー対応のケーキ屋として、してあげられることは何か。
きっと正解は一つではないのでしょうが、僕がたどり着いた答えはこうでした。

「少しでも道を広げ、将来の選択肢を増やす」

アレルギー対応というジャンルはまだまだ前例が少なく、きっと多くのお店は手探りで進めていると思います。
新しいお菓子を作り出すだけでも、大変なことだらけです。
だからこそ我々が開拓者となって、道を切り拓かねばなるまい、と。

先人達が積み上げてきたものを土台に新しいものを作り上げ、さらに次世代へと繋いでいかねばなりません。
いつの時代、どの分野でもそうして進歩してきたように。

いつの日か、アレルギーを持った子供たちが自分でもお菓子を作りたいと思った時、「美味しいものを知っている」という経験は、とても大きな財産になるはずです。

「卵や乳製品や小麦を使わなくても、こういうお菓子を作れるんだ」という希望。
「自分もこんなお菓子を作れるようになりたい」という憧れ。
「もっと美味しいお菓子を自分の手で作るんだ」という向上心。

前へ前へと進む、大きな原動力になることだってあるかもしれません。
自分が作ったお菓子に対してこんなことを言うのはおこがましいのかもしれませんが、このロールケーキが子供達にとってひとつの道しるべになってくれたら嬉しいです。

もちろん、ケーキ自体を楽しんでいただきたいとも思っています。
仕事や勉強の合間だったり、休日のデザートとして、ホッと心を落ち着かせ、安らぎをもたらしてくれますように。
たっぷりのクリームをスポンジと一緒に噛み締めて、贅沢な気持ちに浸れますように。

ただただ、「美味しい」と思ってもらえますように。