2021/11/13 18:36

期間限定品『テリーヌショコラ・マロン』の裏話です。
映画のメイキング映像や、物語の作者あとがきのように、『テリーヌショコラ・マロン』とセットで楽しんでいただければと思います。



今回のテーマは「調和」。

チョコレートはもちろんのこと、栗の存在感もしっかり感じることができるようなお菓子を目標に制作を始めました。

最初の試作で実感したのは、栗の繊細さです。
栗というものはとても淡白な味で、火を通せすことで甘みや香りを引き出すことができる素材。
風味はとても上品ですが、それゆえにチョコレートのような主張の強い食材と合わせると、簡単にかき消されてしまいます。

和菓子でどら焼きや羊羹に入っている栗を感じることができるのは、合わせている食材が小豆などの主張が控えめなもので、きちんとバランスが取れているからなのではないかと推測しました。

洋菓子で栗を使っているものだと、モンブランが真っ先に思い浮かびますが、舌触りはともかく、香りはラム酒やバニラが先行しているように感じます。



では、チョコレートと釣り合うようにするにはどうしたらいいのか?
チョコレートも栗も両方感じることができるようにするためにはどうすればいいのか?

茹でると甘みが増しますが、香りは落ちます。
蒸すと香りが増しますが、甘みは落ちます。
一つの調理法だけだと、一長一短であるわけです。

情報収集をして、考えを巡らせ、試作を繰り返しました。
それでもなかなか思ったようにいかず、どうしたものかと思案していたとき、とあるフレンチシェフの栗の料理に辿り着き、それをヒントに3通りの加工をした栗を組み合わせるという結論に至りました。

つまり、栗の持ち味を「甘み」「香り」「舌触り」に分解して、それぞれを引き出す調理を施してから一つのお菓子にまとめたらいいのではと考えたわけです。


まず1つ、「甘み」を引き出す調理。
殻と渋皮を取ったあと、茹でてからシロップで煮て漬け込んでいます。
糖分の割合を調整することで、栗の甘さが前に出てくるようにしました。


そして2つ、食感を感じられる調理。
シロップに漬けた栗をさつまいもと合わせてペーストにしています。
栗らしい滑らかな舌触り、わずかに感じ取れる粒感を持たせました。


最後に3つ、香りを増幅させる調理。
殻を取った渋皮の状態でじっくり蒸したのち、渋皮をとってサッとシロップに潜らせ、高温の油で揚げています。
糖分や水分をなるべく加えないことで栗の持つ軽やかな香りや香ばしさを引き出し、油で揚げることでさらに香りを高めました。



使っている栗は全て鹿児島県産。
地元で採れた柴栗をじっくり熟成させてから手作業で加工しています。


正直に言うと、とても手間がかかります。
殻を手で剥いたり、渋皮をできるだけとったり。
さらに調理法を3つに分けるということは、それだけ作業工程が増えるということです。
しかし今回はそうしてまで、分けて調理してから一つにまとめる手法を採用しました。



正直、完成品を食べただけでは栗の調理法がそれぞれ違うなんて分かりません。
でも大事なのは「自分で食べて美味しいと思えるかどうか」だと思っています。

そしてそれは「自分の考える『美味しい』を自分の手で作り出すことができるのか」というある種の挑戦でもあります。
「卵・乳製品・小麦を使わない」という制限の中、どこまで「美味しい」の幅を広げることができるのか。

もちろんまだまだ未熟者ですので、知らないことはたくさんあります。
だからこそ未知なる領域を開拓していきたいと思うわけです。

今回の「テリーヌショコラ・マロン」も、そういった試行錯誤の繰り返しで出来上がったものになります。


僕の考える「美味しい」があなたのお口にも合いますように。