2020/07/02 18:37




期間限定商品「Ruby」ができるまでの裏話です。
知らなくても美味しく味わえますが、知っていたらもっと楽しめるようなお話です。





スモモの話

このお菓子を作るための最初のステップ。
それは、「スモモを収穫しに行く」です。

加工されたものを仕入れるのではなく。
果物屋さんで仕入れるのでもなく。
自分の足でスモモの木へと赴き、自分の目で選別し、自分の手で収穫するのです。



そして、まだ若い実は追熟させて頃合いを見はからい、熟した実はすぐに加工します。
薄皮を剥いたり、種を取り除いたり、煮詰めて漉して舌触りを良くさせたり、ドライフルーツにしたり。
一から十まで丁寧に手作業で行っているのです。

そうやって加工を終えて初めて、お菓子作りのステップへ進めるのでした。







香りの話

僕がお菓子を作る時は、「香り」を大切にします。
お菓子を構成している要素の中で、「香り」を感じている時間が一番長いと考えているからです。
口に入れた瞬間から、飲み込んでしまった後まで、刻一刻と変化していきます。

今回の「Ruby」では、それがはっきり表れています。

まず最初に、土台となっているタルトにたくさん使われているアーモンドの香ばしい香り。
普通はアーモンドパウダーを使うとなると、加工済みのものを購入してくるのですが。
僕は自分で挽いて作ったアーモンドパウダーを使っています。
香りを失っていない、挽きたてのアーモンドをふんだんに使ったタルトは、その香ばしさが全然違うものです。



その次に、舌の温度で溶けてきたスモモとチョコレートのクリームが広がりはじめます。
チョコレートの甘さの裏には、桃のような優しい甘さが見え隠れするのです。

その後を追うようにして、中心に隠してあるスモモのピューレが主張しはじめます。
それはまるで、「我こそはスモモなり!」と声をあげているかのように、ラズベリーのような爽やかな酸味が押し寄せてきます。

そうして口の中で各パーツが混ざり合っていく中で、てっぺんに飾っていたスモモのドライフルーツが水分を吸収していくことになります。
潤いを取り戻したスモモはどうなるか?
凝縮されていたスモモの酸味と甘さを解き放つのです。

こうして、飲み込んだあとでさえも、スモモの余韻に浸ることができるのでした。




食感の話

食感というのもまたいろいろな組み合わせがありまして。
同じような食感のパーツを組み合わせて「調和」を作り出したり、まったく違う食感のパーツを組み合わせて「対比」を作り出したりするわけです。
そして今回は「対比」を意識しています。

クリームの柔らかさと、クッキーのザクザク。
食感のオノマトペを楽しめるようなお菓子を。

しかしながら、ただ組み合わせるだけではよろしくありません。
クリームの割合が多ければ、ザクザク食感は埋もれてしまうでしょう。
クッキーの割合が多ければ、逆にザクザク食感が浮いてしまうでしょう。

バランスが大事なんです。

だからこそ、クッキー生地にアーモンドクリームを詰めて焼く、「タルト」がベストでした。



クッキーを薄くして主張を減らしつつ、噛めば簡単に崩れる食感は残し、アーモンドの香ばしさはそのままに、多少の衝撃では壊れない強度を持たせ、スモモチョコレートクリームとのバランスを整える。

その上で、トロッとしたスモモピューレや、パキッとしたチョコレートと組み合わせました。

まったく違う食感を楽しめるようにバランスをとった結果、タルトとクリームになったのでした。




「美味しい」もこうして要素ごとに分解して考えると、いろいろな思惑があるものです。
たしかに、知らなくても問題はありません。
しかしながら知っているだけで、同じお菓子でも何倍も美味しく味わうことができることもある、ということを頭の片隅にでも置いていていただければと思います。




——おまけ——

すもものピューレを作る動画を作りましたので、よかったら観てみてください!